検索サイトで検索をすると、入力した語句に応じて世界中の様々なWebサイトの情報が表示されますが、これは決して簡単な仕組みではありません。
では、検索サイトはどのような仕組みで、入力した語句に合わせてWebサイトを表示しているのでしょうか。
なぜ検索サイトで検索ができるのか
検索サイトでは世界中の様々なWebサイトを検索できるのは、クローラーと呼ばれる情報収集プログラムで世界中のWebサイトを巡回して、データを保管しているためです。
ただ、クローラーも全てWebサイトを巡回しているわけではなく、ランキング、更新頻度など様々な要素で判定して情報を収集しています。そのため、クローラーに巡回されなかったWebサイトは検索結果に表示されないため、SEO(検索サイト最適化)が重要とされています。
なぜ無料で検索できるのか
クローラーで膨大な情報を集めて、解析して、検索サイトのWebサーバで保管するのは莫大な開発費、維持費が必要になります。
検索サイトの収益モデルは多様化していますが、多くの方に利用してもらい、検索キーワードに連動した広告を表示することで収益を得ているため、 広告代理店としての側面も持っています。
しかし、利用者の情報リテラシーが向上すると、情報を選別する能力が高まり、広告のクリック率が低下する可能性があります。
また、検索サイトの対策をすり抜けて詐欺広告が表示されることがあり、利用者は広告を警戒して、広告ブロックツールの利用ことでクリック率が低下するという悪循環に陥る可能性があります。
そうなると、検索された語句で広告を表示する収益モデルの維持が困難になり、将来的には「検索」が有料化する可能性も考えられます。ただ、「検索」自体が有料化するのではなく、AI技術が有料化の鍵を握っていると感じています。
情報は有料か無料か
AI技術について考察する前に、検索サイトが集めている情報が有料なのか無料なのか、という点について考えてみます。
実はこれは非常に難しい問題です。検索サイトは、世界中のWebサイトの情報を集約し、分析して検索結果として表示しています。つまり、検索サイト自体がコンテンツを生み出しているのではなく、第三者が作成したコンテンツを利用してサービスを提供していると言えます。
本来であれば、Webサイトの運営側は情報利用料を請求できる可能性があります。しかし、現状では、検索サイトは情報収集と検索を無料で提供し、Webサイト側は検索結果の上位表示を目指してコンテンツを充実させるという、互助関係のような状態になっています。
しかし、この互助関係は、必ずしも永続的なものではありません。検索サイトとWebサイトが完全に互恵関係にあるのであれば、高額な掲載料を支払っているWebサイトが常に上位に表示されるべきです。しかし、そのような状態になれば、検索結果の信頼性は損なわれてしまうでしょう。
そのため、検索サイトは、利用者にとって信頼できる検索結果を提供し続ける方が、長期的な視点から見て重要だと考えています。そのため、検索結果の上位表示を目的とした悪質なWebサイトを排除するなどの対策のために、定期的にシステムをアップデートしていると考えられます。
情報過多社会では検索にコツがいる
実は検索サイトの検索を補助するための様々な機能が実装されています。例えば、
- 特定のファイル: 単語 filetype:pdf
- 特定のサイト: 単語 site:example.com
- 一部の単語を除外: 単語1 -単語2
- 特定の単語を含む: 単語1 “単語2”
などですが、多くの方はその機能の存在に気がついていない可能性があります。そして、これらの機能を用いたとしても、情報過多社会において、探している情報を見つけ出すには、それなりの技術と労力が必要になりつつあります。
検索ひとつをとっても、年齢、得意不得意、情報リテラシー、セキュリティリスクなど、様々な要因によって、利用者の検索スキルは大きく異なります。利用者ごとの検索スキルを比較することは困難ですが、情報格差は想像以上に広がっていると言えるでしょう。
AIは、人間と会話をするように自然言語で質問を入力することで、必要な情報を表示してくれます。そのため、検索が苦手な人でも、AIのサポートによって、容易に情報にアクセスできるようになる可能性があります。これは、誰もが情報にアクセスしやすくなる「情報リテラシーの民主化」につながる可能性を秘めています。
検索方法の変化
将来的には、検索サイトでの検索方法は、現在のキーワード検索から、会話のような自然言語検索へと変化していく可能性があります。自然言語検索は音声入力との相性が良く、スマートフォンでの利用がよりスムーズになるでしょう。
検索画面がAIとの対話画面のようになる?
検索画面がAIとの対話画面になったとしても、現在の検索画面と大きく変わることはないでしょう。キーワードを入力する代わりに、プロンプトを入力するようになる程度の変化だと考えられます。
AIが検索をサポートする問題点
しかし、AIが検索コンシェルジュのように機能する場合、いくつかの問題点が考えられます。例えば、
- AIの利用によるシステムへの高負荷
- パーソナライズによるフィルターバブル
- AIが誤った情報を表示する可能性
などが挙げられます。それぞれの問題点について、詳しく見ていきましょう。
AIの利用によるシステムへの高負荷
高性能なAIは、質問に対して広範囲の学習データにアクセスして回答を生成するため、システムに大きな負荷がかかる可能性があります。その結果、使用電力も増加すると考えられます。
利用者が検索でAIを利用する場合、AIの精度を維持しつつ、システムへの負荷を軽減することが課題となります。AIの精度を抑制すると、回答の信頼性に影響する可能性があるため、無料プランと有料プランでAIの機能を差別化するという方法が考えられます。
多くのWebサービスでは、無料プランと有料プランで機能に差を設けています。AIを利用した検索サービスにおいても、AIが参照するデータ範囲、検索回数、検索結果の表示数などに制限が設けられる可能性があります。
利用するプランによって表示される情報に差があると、情報格差が拡大する可能性があります。そのため、無料プランでは有料プランのAIの軽量版を提供するなど、情報格差を抑制するための工夫が必要となるでしょう。
パーソナライズによるフィルターバブル
検索サイトでは、利用者の興味などに合わせて検索結果をパーソナライズしていると明言はしていません。しかし、スマートフォンで飲食店を検索した際に、スマートフォンの位置情報などを取得して、近隣の飲食店を表示する傾向があります。
これは「位置情報によって検索結果をパーソナライズしている」と判断することができます。パーソナライズが決して悪いわけではなく、利用者の利便性の向上につながります。しかし、パーソナライズによって表示する情報が制限されることは、情報へのアクセス性や中立性に問題になりかねません。
特にSNSではパーソナライズが積極的に行われていると考えられ、ポストの内容、いいね、リポスト、ミュート、ブロックなどによって「おすすめ」に表示するアカウントやポストの内容を調整していると考えられます。
これは、フィルターバブルと呼ばれる現象で、利用者の好みや興味に合わせた内容が表示することができる一方で、自分と似た意見を持つアカウントばかりを表示してしまい「自分の考えは間違っていない」と思い込むエコーチェンバーを誘発する危険性があります。
AIが誤った情報を表示する可能性
AIは質問に対して膨大な学習データから情報を提示しますが、学習データに偏りや誤りがあると誤った情報を提示する可能性があります。
また、AIは質問された内容に対して、事実とは異なる情報や実際には存在しない情報を提示してしまうことがあります。この現象はハルシネーションと呼ばれ、AIの重大なリスクの一つとなっています。では、AIはなぜハルシネーションを引き起こすのでしょうか。
これには、学習データの偏りや情報の古さ、質問内容の理解不足、AIの情報の推測など、いくつかの要素が複雑に絡み合っています。AIは学習データとアルゴリズムに基づいて、自分で考えて回答を生成します。このことが、ハルシネーションを引き起こす要因の一つと考えられています。
検索サイトで情報を調べる際は、各Webサイトに掲載されている情報を鵜呑みにせず、複数のWebサイトを確認して情報の精査を行う必要があります。これは、AIで検索する場合でも同様です。
検索コンシェルジュとしてのAIができること
現在の検索ではキーワードを調整しながら、探している情報を絞り込んでいく必要があります。また、外国語のWebサイトなども含めて検索する場合は、自動翻訳サービスを利用する必要があり、検索に様々な知識、労力が必要になります。
しかし、AIは全世界のWebサイトを学習している可能性が高く、利用者の言語に翻訳をして情報を提供してくれます。
また、特定の単語や意味が思い出せない場合に「ある単語が思い出せません。〇〇のような意味で漢字2文字でした」のように伝えると、膨大な学習データの中から候補を提示してくれます。これは今までの検索では対応できなかった方法で、検索の概念を大きく変える可能性を秘めています。
まとめ
今後、何かを検索する際に、検索サイトではなく、AIに尋ねることが一般的になった場合、検索サイト最適化は(SEO / Search Engine Optimization)は、AI最適化(AIO / Artificial Intelligence Optimization)などと、呼ばれるようになり、これまでの情報収集のあり方を大きく変えてしまう可能性があります。
現時点でも、情報が多すぎて探している情報に辿り着くのに技術や時間を要する状況を考えると、将来的に検索にAIが導入される可能性は高いと感じています。
ただ、それによりフィルターバブルが強化され、利用者が本当に知りたい情報に辿り着けなくなる問題はより深刻化する可能性は否定できません。
未来がどのように変化するかは未知数ですが、AIの登場により、検索を取り巻く環境は大きく変化すると感じています。